こんにちは。カガクシャ・ネット副代表の山田です。今回の記事では、10年前にアメリカ留学をスタートされ、今もアメリカにて研究活動に従事されている代表の武田さんに、これまでの振り返りについてご寄稿いただきました。大学院留学やその後の進路においては、なかなか一筋縄ではいかないこともあるかと思います。今回の記事には、「そういうときにはどうすればよいか」という皆さまの疑問に対する、武田さんからの「大きなメッセージ」があるのではないでしょうか。
ちょうど10年前、医療工学研究者としての武器を持ちたい、力がほしいと思ってボストンに来た。なぜそう思ったのか、今にして思えば、日本時代の指導教員に 「タケダくんは、着眼点はいいけど… それだけだよね」 と言われたことがきっかけかもしれない。そこからどうやって10年間生き延びてこられたのかと、思い返すと「自力でなんとかしようとすることをやめた」からではないかと思う。
数年前に同じ質問をされたときは「生き延びるために必死で何でもしたんだよ」と答えた覚えがある。この二つは実は同じことを言っている。自力でなんとかすることをやめたと言っても全力でまわりに助けを求めないと誰も助けてくれないからだ。
MITで博士を取り、現在NASA JPLで研究員をされている石松拓人氏はこう書いている。
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それでも僕がのらりくらりとここまで来れたのは、他力のおかげだ。アメリカのトップスクールはライバルがひしめき合う競争の場であり、厳しい勝負の場だ、という見方もあるが、僕は真逆で、全ての人は味方であり、無敵とは文字通り敵がいないことだと思っている。(1)
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この言葉を読んだのは公開された2013年頃だと思うが、読んだ当時は正直しっくり来ていなかった。それからだいぶ時間がたってから、博士号を取得し、企業に就職してチームメンバーとしてプロジェクトを遂行するようになり、子育てを始めたこともあって、初めて意味が理解できたように思う。
出願直前にラボ訪問をしていたことが功を奏し、なんとか留学先が決まった(2)。しかし、大学院留学生活は順風満帆とは言いがたいものだった。研究テーマはなかなか定まらず、実験をしてもことごとくうまくいかない。博士たるもの困ったときは自力でなんとかできるものだと思っていたし、そんなことをどこかで読んだ記憶がある。無駄に頑固でプライドの高かった自分は一人で夜な夜な解決を試み失敗し続けていた。そんなとき、進捗が芳しくないことに気づいた指導教員から修士号を取って退学するかと勧められた。このままではいけないと思い直し、ラボメイトにようやく助けを乞うことにした。その後ラボメイトと一緒にトラブルシューティングの方法を考えたおかげで、なんとか実験は成功し、そこから2年くらい頑張って卒業することができた。
新年のあいさつにも書いたことだが(3)、2020年は研究者をやめようと思っていて、実際に転職活動もしていた。ところが、まったくの他分野に行こうとしていたのでコネなど一切なかった。しかしいつも言っているようにコネがないなら作ればいいのだ。少しでも似たキャリアの人を見つけてはコンタクトを図り、実際に複数の方に進路相談させていただいた。結局、同じような研究職に転職することになったのだが、 他分野に移るのも悪くはないと思ったし、そういった転機もいつか訪れるのかもしれないと感じている。
研究者としての武器を持ちたい、力がほしいと思って渡米してから10年。武器など結局手にはできなかった。自分より賢い人など周りにいくらでもいるし、どんな分野でも経験豊富な人であふれている。このまま研究者としてやっていけなかったら私の人生は破滅だとやけっぱちになったことだっていくらでもある。しかし、ただ生き残ることだけを考えるなら、その方法などいくらでもあるし、(カガクシャ・ネットで言うことではないが...)研究者をやめたって生きていけるという自信が持てた。助けを求めるというのは別に情けないことではない。研究だけでなく、キャリアでも、その他人生において困ったことがあっても、たいていの場合は頑張れば誰かが助けてくれると信じている。いざとなったときは神様だっているし(笑)
1. https://note.com/takutoishimatsu/n/n1f7c489e61d9
2. https://kagakushanet.blogspot.com/2015/08/blog-post_29.html
3. https://kagakushanet.blogspot.com/2021/01/blog-post.html
著者略歴:
京都大学工学部物理工学科、同大学大学院工学研究科機械理工学専攻修士課程を経て、 2011年からタフツ大学医療工学科博士課程に在学し2016年に学位を取得。 ポスドク経験を経て、2017年からボストン郊外の企業にて製剤設計の研究開発を行っている。カガクシャ・ネットのスタッフには2011年に志願。その後2015年からカガクシャ・ネット5代目代表を務め、「理系大学院留学」の第三刷改訂分の編集協力、「研究留学のすゝめ」第15章 「大学院留学のすゝめ」を執筆。
インタビュー記事:. https://theryugaku.jp/1669武田個人ページ: https://sites.google.com/site/yujistakeda
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発行責任者: 武田 祐史